伝統の樺細工に新しい風を吹き込む「冨岡商店」
歴史ある武家屋敷が建ち並び、「みちのくの小京都」とも呼ばれる秋田県・角館町。今も江戸時代初期の屋敷割や屋敷構えなどを残し、国の重要伝統的建造物群保存地区の指定を受けています。
その一角にあるのが、樺(かば)細工の製造元、冨岡商店。2005年、この地に本店を移し、セレクトショップを併設しました。店内には樺細工だけではなく、器やアクセサリー、染め物などさまざまな「手しごと」が並びます。
先代である父が始めた樺細工問屋を継いだ冨岡浩樹社長。「一生にひとつ」使い続ける豊かさを通して、潤いある生活のお手伝いを目指しています。
武士の手内職から花開いた「樺細工」
樺細工や桜皮細工と表記される角館の「かば」細工。江戸後期、角館を治める佐竹北家の武士・藤村彦六が秋田県北部の阿仁地方に伝わる技術を習得したことが始まりだといわれています。その後、下級武士の手内職として広がり、明治期、有力な問屋が現れると、安定した産業としてさらに発展を遂げます。230年もの間、技が受け継がれた樺細工は、1976年、秋田県で初めて国の「伝統的工芸品」に指定されました。
樹皮を使い分け、さまざまな表情を生み出す
もとの質感を活かした「霜降皮」で自然な表情を楽しんだり、表面を削って現れる赤茶色の層を磨いた「無地皮」で職人が削りと磨きを繰り返した独特の色艶を味わったり。自然が生み出した色彩や模様は職人の手でさまざまな表情を持ち、使い込むほどに味わい深い質感と光沢を増していきます。湿気を避け、乾燥を防ぐなど実用性も兼ね備えているため、薬籠や煙草入れ、刀の鞘の補強材などに使われていました。
樺細工が与えてくれる暮らしの彩り
「樺細工は生活必需品ではなく嗜好品です。だから、お客さんが商品を見て、ニコッと笑ってもらえるようなものを作りたい。そうすると、気持ちがちょっと豊かになると思うんです」。
セレクトショップの名前は、桜に月の幽玄な様を表す「香月(かづき)」。日本人が昔から持っている普遍的な美意識の文化を角館から発信したいと考えました。「使い続ける豊かさ」を提案できるよう、新人作家の作品発掘も含め、洗練された、それでいて親しみのあるものづくりを目指しています。
コラボレーションが新しい商品を生み出す
「樺細工だけを置いたのでは、新しいものは生まれにくい。さまざまな『良いもの』を集めることで、作家同士の化学反応が起き、自然と新しい商品が生まれます」。
樺細工のほか、秋田県で国の伝統的工芸品に指定された「手しごと」は、大館曲げわっぱ、川連漆器、秋田杉桶樽の3つ。冨岡商店は、このすべてとコラボした商品を生み出しています。
若い人々も惹きつける新ブランド「KAVERS」
そこで、大切な樹皮を100%活かし切ることはできないかと考え、完成したブランドが「KAVERS(カヴァーズ)」です。樹皮を微細加工し、ブローチ、ピアス、ヘアゴムなどを製作しました。
「どんな表情の樹皮や端材でも活用することができますし、繊細なパターンと鮮やかな色合いは樺細工を知らない人の目にも留まります。見本市では若い方々にも好評で、主催している会社から『うちのショップに置きたい』と声をかけていただきました」。
樺細工の価値を世界に向けて発信する
「樺細工は世界に類を見ない一属一種ともいうべき伝統工芸で、その技術は角館だけに引き継がれています。さまざまなコラボレーションや新たな技術を組み合わせることで、国内はもちろん世界に樺細工の価値を発信していきたいです」。