「ひろば」514号 発行
2022.09.28|広報誌
特集
ウクライナショック~エネルギー非常事態をどう乗り越えるか〜
エネルギーアナリスト/ポスト石油戦略研究所代表 大場 紀章氏
(本文要約)
・ウクライナ侵攻を行うロシアに対し、経済制裁の決め手と考えられるのはエネルギー産業への禁輸措置である。最も多くロシア産のエネルギーを購入しているEUは、他国からLNGを調達し省エネや再エネの増強を行い、ロシアからの天然ガス購入を年内に3分の2減らすことを目標とする「REPowerEU計画」を発表した。
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・しかし、一時的にそれがうまくいったとしてもEUが必要とする量を調達できるとは限らない。LNG開発には長い時間がかかることから、仮にLNGを追加購入できたとしても、それは他国のLNG購入量がその分減ることを意味する。そうなれば、LNGのスポット市場価格のさらなる高騰は避けられずLNGを買えない国も出てくる。EUの脱ロシアのために、日本を含め世界が痛みを共有することになるだろう。
・ロシアへの経済制裁が難しいとなれば、西側陣営は、ますます軍事的手段に頼らざるを得なくなる。すでに「第三次世界大戦が始まっている」と評した歴史人口学者もいる。日本も積極的に対ロシア制裁に参加しており、これまでに構築してきた日露の資源開発の未来は完全に閉ざされたと言ってよいだろう。日本のエネルギー戦略は一から見直しが必要だ。
・国は「クリーンエネルギー戦略」を策定する審議会を立ち上げた。この戦略は、2050年カーボンニュートラル、2030年度温室効果ガス排出量46%削減という2つの野心的な目標に向けた政策だが、ウクライナ侵攻などが起き、議論は一度立ち止まらざるを得ない状況だ。その後、首相を議長とする新たな会議体を立ち上げ、エネルギーの安定供給やGX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債の財源論などについて議論を始めたが、「原子力なしのGXはない」という意見が根強い。
・日本のエネルギー政策は、これまでの方針と180度逆の「脱ロシア」に加え、「再エネの導入拡大および自由化による電力供給不足の問題」「脱炭素による産業の成長」という、3つの極めて大きな課題に同時に取り組まなければならない。これら3つのどれにとっても重要な前提である原子力政策を明確にした上で初めて、クリーンエネルギー戦略の議論を行うことができるだろう。
せとふみのereport
「脱炭素へ期待の取り組み」アンモニア発電②~株式会社JERA碧南火力発電所~
サイエンスライター 瀬戸 文美氏
・JERA碧南火力発電所は総出力410万kWの、石炭火力としては国内最大、世界でも最大級の火力発電所だ。低炭素に関するさまざまな取り組みを行っているが、今回は火力発電所の燃料として、燃やしてもCO₂を排出しないアンモニアを混焼する技術を確立するための実証試験の様子を取材した。
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・CO₂の排出量削減に向けて、多くのCO₂を排出する石炭火力の比率を低減していく必要があるが、現状では、安価で安定した電力供給のためのベース電源として石炭火力発電は必要不可欠であり、高効率化等CO₂排出量の削減が求められる。碧南火力発電所では、既存の設備を利用し、燃料にアンモニアを混ぜ、CO₂排出量を低減させる実証試験を行っている。
・アンモニアを燃料に混ぜるために改造されるのは、「バーナ」と呼ばれる燃料をボイラ 内に投入し燃焼させるための装置だ。碧南火力発電所では5号機による小規模な試験を経て、今後は4号機のバーナをすべてアンモニア混焼用に改造し、アンモニア20%混焼の大規模実証試験を行い、その後の商用運転へと展開していく予定だ。
・アンモニアを混ぜる割合を20%以上に増やそうと考えたとき、問題となるのがその燃えにくさだ。碧南火力発電所では50%以上のアンモニア混焼が可能なバーナを開発するとともに、燃焼温度などについての検証や、ボイラなど他の設備がこのまま利用可能かどうかを検討し、可能な場合は2028年までに50%以上のアンモニア混焼の実証実験を行う予定だ。
・CO₂排出量が多いからといって、石炭火力発電所を今すぐに全部止めるわけにはいかない。電力の供給コストを抑制するとともに安定供給を続けながら着実にCO₂排出量を削減するためには、研究開発成果を実機実証試験で確認するというイノベーションの積み重ねが必要だ。
放射線のおはなし
CT検査を受けるとがんになるリスクは増加するのか
東北放射線科学センター 理事長 宍戸 文男氏
エネルギーを学ぶ・伝える・考える
以上