「ひろば」517号 発行
2023.03.29|広報誌
特集
GX実行会議―日本のエネルギーの立て直しと変革に向けて―
国際環境経済研究所 理事・主席研究員
東北大学特任教授(客員)
U3 イノベーションズ合同会社共同代表 竹内 純子氏
(本文要約)
・ 化石燃料からクリーンエネルギーへの転換を核として、経済・社会、産業構造全体の変革を目指すGX(グリーン・トランスフォーメーション)を進めるため、政府は2022年7月末に「GX実行会議」を設立した。そこで何が議論されたのか、今後わが国のエネルギー政策はどのように変化していくのかについて整理する。
<全文PDFはこちら>
・第1回会合では、頻繁に起こる電力供給のひっ迫や、価格の高騰などに関する強い危機感が示され、まずはエネルギー供給構造の立て直しを急ぐべきという発言が相次いだ。第2回会合では、電力自由化の制度設計修正の必要性、原子力事業立て直しの重要性、それらに政治の決断を求める意見が出された。
・多くの人口を抱えるわが国が、暮らしや経済を支えるエネルギーの安定を確保し、かつカーボンニュートラルを目指すのであれば、原子力の活用は必須だと多くの委員から発言があった。これを受けて、原子力の活用を進める方針の中で原子力発電所の新設・建て替えについても明示されたが、実行するにはさまざまな施策を講じる必要がある。
・第一に「政策の安定性」だ。原子力政策の転換が一時的ではないことを示す必要がある。第二は「安全規制の適正化と賠償制度の見直し」だ。原子力は潜在的危険性の高い技術であり、事前予防(安全規制)と事後救済制度(賠償制度)の確保が極めて重要である。また、原子炉等規制法や電気事業法など関連法案の見直しも求められる。第三に「電力自由化の修正」があげられる。原子力は初期投資も莫大で、事業期間は長期にわたる。新規建設を期待するのであれば、米国や英国で導入された原子力事業の予見性を高める施策が必要となる。
・このほかにも、核燃料サイクル政策や放射性廃棄物処分地の選定など、難題が山積している。原子力は政治的には難しいテーマであり、長年原子力政策は停滞していた。岸田政権が原子力事業の立て直しを進めると明言したことは大きな一歩であり、GX実行会議で示された方針に基づき、本国会でどのような議論が行われるかに注目したい。
せとふみのereport
「脱炭素を目指す取り組み」高温ガス炉~国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 大洗研究所高温ガス炉研究開発センター~
サイエンスライター 瀬戸 文美氏
(本文要約)
・敷地面積160万㎡という、広大かつ国内外でも屈指の新型原子炉の研究開発拠点である、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)の大洗研究所。研究所内には3つの原子炉があり、今回は日本で唯一の高温ガス炉の試験研究炉HTTR(高温工学試験研究炉)についてわかりやすくレポートする。
<全文PDFはこちら>
・高温ガス炉とはヘリウムガスで950℃の熱を取り出せる原子炉。現在、発電用途に使われている原子炉は「軽水炉」と呼ばれ、そのほとんどが核分裂によって発生した熱を取り出すための「冷却材」に水を利用している。その水の代わりに、高温でも安定なガスであるヘリウムを冷却材として利用しているのが、次世代原子炉であるHTTRだ。
・HTTRは燃料や炉本体、一部の機器・配管も高熱に耐えられる必要がある。燃料には炭素や炭化ケイ素からなるセラミックス材料が活用されている。熱に強い燃料や黒鉛製の炉内構造材を用いることで、燃料が溶け出して炉を壊すような深刻な事故の恐れはなく、また、冷却材に水を使わないため、水素爆発や水蒸気爆発を起こすこともない。
・安全性が高く、高温熱を得ることができるHTTRの用途は、発電だけではなくカーボンフリーの水素製造についても期待されている。水を直接、水素に分解するためにはとてつもない高温が必要だが、ヨウ素(I)と硫黄(S)を媒介にするIS法では、800〜900℃ほどの温度で水を分解して水素を生成することができるため、JAEAでその研究が進められている。
・水素と電気、どちらの需要にも応えられるのは高温ガス炉ならではの利点。水素製造に加え、ヘリウムガスでタービンを回し、発電を行うことができれば、天候や季節によって出力が変動する再生可能エネルギーを補完することもできる。今後、ヘリウムガスタービンの研究開発も計画されており期待が高まる。
放射線のおはなし
エネルギーを学ぶ・伝える・考える
以上