東北エネルギー懇談会

お知らせ

「ひろば」529号 発行

2025.03.25|広報誌

特集

東日本大震災から14年 福島事故以降の安全学について
東北大学大学院 工学研究科技術社会システム専攻 教授 高橋 信氏

(本文要約)

・従来の安全対策によって私たちの社会は確実に安全になってきた一方、原子力発電所、電力の発送電システムなど現代社会のインフラの多くが該当する社会技術システムは巨大化・複雑化したため、これまでとは異なる視点で安全を考える必要が出てきた。それが「Safety-II」という考え方だ。

 

・従来の安全管理「Safety-I」は、何万回に1回のトラブルでも発生した原因を特定し、それを取り除くことで再発を防ぐという考え方。「Safety-II」では成功が多い状態を安全と捉え「何がうまくいっているのか」に着目し、それを広く共有することで安全性を向上させようとする考え方だ。

 

・安全性が向上した組織では、安全性の高い状態がそのまま続くと考えがちだが、現実には組織の状態は常に変化しており、安全な状態がそのまま維持されることは極めてまれである。さまざまな要因により、組織の状態は常に変化し、往々にしてその変化は「安全性の低下」に向かう。

 

・安全性を高めるための基本となるのはリスク評価。対象となるシステムのリスクを評価し、対応策を検討する。しかし、このリスク評価は多分に主観的にならざるを得ない。なぜなら、安全性向上の活動の基本となるのは人間が感じる「主観的リスク」だから。そのため、人間の主観的なリスク認識には、さまざまなバイアスが影響を与えることになる。

 

・リスク認識に影響を与える代表的な認知バイアスは3つがあり、1つは自分にとって都合のいい情報ばかりを集める「確証バイアス」。2つは多少の異常が発生しても正常範囲内と捉える「正常性バイアス」。3つは災害が発生した直後にまた起こるのではと感じる「近接性バイアス」。原子力の安全を考える上で重要なのは「近接性バイアス」だ。東日本大震災直前の原子力業界の状況は、2007年の新潟県中越沖地震の影響で「耐震裕度」の問題にリソースが集中し、「耐震」と同じくらい、あるいはそれ以上に重要だった「津波」のリスクに十分な意識が向けられなかった可能性がある。

 

・現在の原子力業界も、東京電力福島第一原子力発電所の事故による「近接性バイアス」の影響を受けているのではないか。多くの安全対策は「福島事故」を繰り返さないことに重点が置かれている。しかし次に起こる重大事故は、福島事故とはまったく異なる様相を呈するかもしれない。そうした未知のリスクに対しても備えをしておく必要がある。それには柔軟で効果的な対策を講じることが重要なのだ。
<全文PDFはこちら>

放射線のおはなし

原子炉の運転状況を把握できるカムランド
東北放射線科学センター 理事 石井 慶造氏

せとふみのereport プラス

エネルギーミックスを支える現場から―技術者たちの思い―~国立研究開発法人 産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所(FREA)~

・国立研究開発法人 産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所(FREA)は、政府の東日本大震災からの復興の基本方針を受け、産総研の新たな研究開発拠点として2014年4月に福島県郡山市に開所した、わが国唯一の再生可能エネルギー(以下、再エネ)に特化した国立研究機関です。広大な敷地内に再エネに関する研究・実験施設と実証フィールドが設置されており、社会実装に向けた研究開発が行われている。

 

・FREAでは被災地企業に対して企業が有する再エネに関連した技術やノウハウの事業化を支援している。これまで多くの課題について事業化され、非常に高い事業化率を達成している、と所長の古谷博秀さんは説明する。また、福島県では2040年までに消費エネルギーと同等の再エネを生み出すことを目指しているが、その設備の運用保守技術者は世界から必要とされているので、ぜひ若い人たちに参加してもらいたいと語る。

 

・FREAを拠点に風力発電にかかわる専門的な研究を行う再生可能エネルギー研究センターに所属する研究員の久保徳嗣さんは、風力発電の要である風車の羽根、ブレードと呼ばれる部分の性能向上に関する研究を行っている。福島県の技術を有する企業と連携協力しながら、新しい原理や効果を発見し、新しいデバイスを開発して実際に風車に搭載できたときの達成感を分かち合えるのはうれしい、と語った。

 

・同じく研究員の粟飯原(あいはら)あやさんは、FREAに日本で初めて導入され、世界にも16台しかないという回転式のレインエロージョン試験装置を使って、雨天時に風車のブレードに雨粒がぶつかると衝撃が発生し損傷が生じるという課題に取り組んでいる。実験と解析を重ね、将来的には試験装置を使った実験結果から実機の風車ブレードで長期間の評価をできるようにしたい、と話した。

 

・今、福島県阿武隈地域では完成すれば国内最大規模となる陸上風力発電施設の建設が進められている。これから風力の大量導入を支える技術を確立することが重要であるとされている中で、国研であるFREAへの期待も高く、若い研究者2人は地域と世界を相手にした国際連携と、幅広いフィールドで活躍することを期待されている。
<全文PDFはこちら>

教えて!坪倉先生 気になる“ ほうしゃせん”

自然界の放射線について ―その2―
福島県立医科大学 医学部放射線健康管理学講座 主任教授 坪倉 正治氏

トピックス

電気事業連合会、大阪・関西万博に「電力館 可能性のタマゴたち」を出展

エネルギーを学ぶ・伝える・考える

秋田県立新屋高等学校(秋田県秋田市) 阿部 大輔氏

以上

ページトップへ