「ひろば」512号 発行
2022.05.24|広報誌
特集
資源価格高騰の背景と今後の電力業界の対応策
読売新聞東京本社編集委員 倉貫 浩一氏
(本文要約)
・世界中で資源需要が高まってきているが、天然ガスとLNGは供給力が限られており、国際情勢のわずかな変化で価格が変動する。また供給面では、脱炭素の実現を急ぐあまり油田やガス田の開発を行う上流投資が抑制されてきたため、世界的なLNGの需要増に対応できず、今後、深刻な供給力不足を招く恐れがある。
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・日本政府の重要課題は、エネルギー価格の高騰にともなう物価上昇をどう防ぐかだ。天然ガス・LNGの市場の安定には、十分な供給力を確保するため、上流投資について継続的な資金供給が行われることが欠かせない。
・今回のウクライナ危機で浮き彫りになったのは、エネルギー政策は環境保護の観点だけで決められないということだ。エネルギーの価格と供給量の安定が極めて重要で、環境、経済性、エネルギーセキュリティの3つの視点「S+3E」を、バランスよく実現する方向に転換しなければならない。
・エネルギー安全保障と脱炭素の両立は難しい課題だ。そのため、CO₂を排出せず、発電コストが安く安定供給にも資する原発の重要性を見直すべきだ。石炭火力発電も、日本の電力供給安定化のためには欠かすことができない。CO₂排出量を抑える工夫をしながら既存の石炭火力を活かしていくことが現実的な対応だ。
・資源を持たない日本は、諸外国や国際機関などへエネルギー安全保障の確保の重要性を強く訴える必要がある。同時に、ウクライナ危機、脱炭素、日本の財政悪化の3つが電気料金の高騰を招き国民生活を苦境に追い込む事態を避けるため、官民で知恵を絞らなくてはならない。
せとふみのereport
「革新的な取り組み」CO₂ 回収・貯留技術CCS~苫小牧CCS 実証試験センター~
サイエンスライター 瀬戸 文美氏
・今回は、大気中に排出される前にCO₂を集めて地中に貯留するという画期的なアイディアによる技術「CCS」がテーマだ。北海道苫小牧で行われている実証実験の仕組みや、CO₂削減策として今後どのように活用されていくのかについて見ていく。
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・CCSは、工場や発電所などから排出されるCO₂を大量に含んだガスからCO₂だけを分離・回収し、それを地中へ送り込んで長期間安定的に貯留することを目的としている。苫小牧CCS実証試験センターでは現在、貯留したCO₂の監視を行う一方、資源として活用するCCUとの連携運用も検討されている。
・CO₂を回収した後のガスの成分はほとんどが水素で、燃やしてもCO₂が発生しない燃料源である。苫小牧CCS実証試験センターではこの水素をボイラーの燃料として使用し、施設内で使用する電力の発電や、熱源として利用している。
・一方、分離・回収したCO₂は圧縮され、地中の砂岩や火山岩からなる貯留層の中へ送り込まれて、その隙間に浸透していく。このとき、泥岩などからなる遮へい層が貯留層の上部を覆いCO₂が漏れ出るのを防ぐ。CO₂は、貯留層の隙間にある地層水(塩水)に溶け、やがて鉱物へと変化し、長期間安定的に閉じ込めることができる仕組みだ。
・カーボンニュートラル(脱炭素社会)の実現に向けて、様々な手段を尽くしてもCO₂排出をゼロにすることは難しく、最後の手段がCCSと言われている。あらゆる可能性を見据えて、前もってCCS/CCUの研究開発や実証実験に取り組み、技術が必要となった際はすぐに実用できるよう備えておくことが重要だ。
放射線のおはなし
転移のある前立腺がんの核医学治療
東北放射線科学センター 理事長 宍戸 文男氏
特別企画
エネルギーを学ぶ・伝える・考える
以上