東北エネルギー懇談会

ひろば516号|特集 <要約版>

国際エネルギー情勢と日本のエネルギー政策
日本エネルギー経済研究所 常務理事 山下 ゆかり氏

・脱炭素に向けて世界各地で再生可能エネルギーの導入が増えたため、2021年初めから電力需給ひっ迫が世界でたびたび生じていた。そこで、バックアップ電源として、機動的に再エネ電力の変動を補い、天候不順などによる需要急増への対応が可能で、CO₂排出量が相対的に少ないガス火力の運用が増えてガス価格が高騰していた。

 

・ロシアによるウクライナ侵攻は天然ガス市場の混乱にさらに拍車をかけた。特にロシアへのエネルギー依存が大きい欧州各国では、電力とガスの供給不安の解消が喫緊の課題となった。日本もロシアから化石燃料を輸入しているが、その輸入量は限定的だ。国内のエネルギー資源が限られ、他国と送電線などでつながっていない日本では、海外からの輸入を前提にエネルギー源と供給源(国)の多様化重視の視点からロシアからも輸入している側面がある。

 

・しかし日本でも、2022年には2回の電力需給ひっ迫が生じた。脱炭素に向けて再エネ電力の増大と原子力発電の再稼働が進められる中、2016年の電力小売自由化以降、経済性を失った老朽火力発電の休廃止が進み、急な需要増大などへの調整力が失われつつある。そのため長期脱炭素電源オークションをはじめとした各種対応策、システム整備などの検討が進められている。

 

・世界的なガス不足によって、欧州では一時的な石炭利用や原子力を再評価する動きも出てくるなど、電源のベストミックスを考えることの重要性があらためて認識されている。日本では2022年8月のGX実行会議において、岸田総理大臣から「原子力を再エネと並ぶ将来にわたる選択肢として強化するためのあらゆる方策について年内に具体的な結論を出すよう」指示が出され原子力政策推進への転換が始まった。

 

・コロナ禍・ウクライナ問題などを境に、世界は大きく変化した。気候変動への対応の必要性に変わりがない中、エネルギー資源や技術など、各国の格差も明らかになりつつある。日本企業が生き残るためにはどのような産業構造、社会経済構造を目指すべきなのか、どの技術を開発・維持すべきなのかなど、企業の生き残りをかけた技術覇権競争がすでに始まっている。

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