COP26とカーボンニュートラル
東京大学公共政策大学院 特任教授 有馬 純氏
・ 2021年のCOP26で最も注目を集めたのは、「1.5℃安定化」「2050年のカーボンニュートラルに向けた国際的合意ができるか」そして「石炭火力をどうするのか」という3点だった。
・直前のG20では脱石炭には触れず、温度目標についてはパリ協定の規定の再確認にとどまったが、COP26では「1.5℃上昇に抑制するよう努力することを決意する」ことに成功。石炭火力フェーズダウンも盛り込まれ、グラスゴー気候協定は「歴史的合意」だと高く評価された。
・しかし2050年全球カーボンニュートラルを目指す方針を明確に打ち出したことは、2050年までに排出できるCO2総量に枠をはめることとほぼ同義であるため、限られた炭素予算をめぐって今後、先進国、途上国で激しい争奪戦が生じることは確実だ。先進国のカーボンニュートラル達成時期の前倒しや途上国支援の大幅積み増しを求められることになるだろう。
・石炭火力もフェーズダウンということで今回は決着したが、今後フェーズアウト議論の再燃や、対象が化石燃料全体に広がる可能性もある。何より問題なのは、これらの議論が現実のエネルギー情勢と乖離していることだ。世界を席巻しているエネルギー危機は国民への低廉で安定的なエネルギー供給が危うくなれば、温暖化防止よりも国民生活防衛が優先されることを示している。
・温暖化問題は独立した存在ではなく、地政学、地経学的な視点でとらえる必要がある。特にエネルギー面が脆弱で、エネルギーコストも高い日本は、原子力を含め、利用可能なオプションを全て活用し、国益を見据えた対応を行うことが不可欠だ。