東北エネルギー懇談会

ひろば514号|特集 <要約版>

ウクライナショック
〜エネルギー非常事態をどう乗り越えるか〜
エネルギーアナリスト/ポスト石油戦略研究所代表 大場 紀章氏

・ウクライナ侵攻を行うロシアに対し、経済制裁の決め手と考えられるのはエネルギー産業への禁輸措置である。最も多くロシア産のエネルギーを購入しているEUは、他国からLNGを調達し省エネや再エネの増強を行い、ロシアからの天然ガス購入を年内に3分の2減らすことを目標とする「REPowerEU計画」を発表した。

 

・しかし、一時的にそれがうまくいったとしてもEUが必要とする量を調達できるとは限らない。LNG開発には長い時間がかかることから、仮にLNGを追加購入できたとしても、それは他国のLNG購入量がその分減ることを意味する。そうなれば、LNGのスポット市場価格のさらなる高騰は避けられずLNGを買えない国も出てくる。EUの脱ロシアのために、日本を含め世界が痛みを共有することになるだろう。

 

・ロシアへの経済制裁が難しいとなれば、西側陣営は、ますます軍事的手段に頼らざるを得なくなる。すでに「第三次世界大戦が始まっている」と評した歴史人口学者もいる。日本も積極的に対ロシア制裁に参加しており、これまでに構築してきた日露の資源開発の未来は完全に閉ざされたと言ってよいだろう。日本のエネルギー戦略は一から見直しが必要だ。

 

・国は「クリーンエネルギー戦略」を策定する審議会を立ち上げた。この戦略は、2050年カーボンニュートラル、2030年度温室効果ガス排出量46%削減という2つの野心的な目標に向けた政策だが、ウクライナ侵攻などが起き、議論は一度立ち止まらざるを得ない状況だ。その後、首相を議長とする新たな会議体を立ち上げ、エネルギーの安定供給やGX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債の財源論などについて議論を始めたが、「原子力なしのGXはない」という意見が根強い。

 

・日本のエネルギー政策は、これまでの方針と180度逆の「脱ロシア」に加え、「再エネの導入拡大および自由化による電力供給不足の問題」「脱炭素による産業の成長」という、3つの極めて大きな課題に同時に取り組まなければならない。これら3つのどれにとっても重要な前提である原子力政策を明確にした上で初めて、クリーンエネルギー戦略の議論を行うことができるだろう。

 

ページトップへ