東北エネルギー懇談会

ひろば524号|特集 <要約版>

エネルギーを巡る新情勢と原子力の価値
東京大学 大学院工学系研究科 教授 小宮山 涼一 氏

・脱炭素化に向けた対策においてあらゆる技術の活用が求められる中で、いま原子力は脱炭素化やエネルギー安定供給の上での重要なオプションとして国際的に再評価されている。IEAによる2050年ネットゼロシナリオでは、原子力発電量は約6兆kWhと、2倍(2022年比)まで増加し、太陽光や風力発電とともに世界の脱炭素化を支える役割を担うと予測されている。

 

・脱炭素化に加え、経済成長の実現には安価でクリーンなエネルギーの確保が重要だが、CO2排出ゼロ、少量の燃料で極めて大きいエネルギーを長期間安定供給できる原子力発電は多くの要件に寄与しうる技術である。ただし福島第一原子力発電所事故を踏まえた社会からの信頼回復など、ステークホルダーを挙げての課題解決への努力を期待したい。

 

・その中で、安全面や経済面などでの性能を高めた「次世代革新炉」への関心が国際的に高まっている。全般的特徴として、自然災害に対する強靭化、シビアアクシデントへの対策強化、再エネ出力変動への対応などが挙げられる。今後、技術の実証、経済性の確認、革新炉の安全性を反映した規制基準の検討なども必要となる。

 

・AIなど社会で流通するデータとその情報処理量の増加や半導体工場の新増設を背景に、内外において電力需要が増加する可能性が指摘され始めている。いまコスト低下が進んだ再エネへの関心が国際的に高まっているが、発電コストに加え、送配電に要するコストなど電力システム全体でのコスト評価を客観的に考える必要がある。

 

・日本の太陽光発電は世界第3位の導入量を誇るが、太陽電池の国内出荷量は約8割から9割を海外生産品が占めており技術自給率は必ずしも高いとはいえない。一方、原子力発電はほぼ国産技術であり、自国の技術で自国のエネルギー自給率の向上に貢献する。雇用確保や世界で技術をリードできる環境をもたらし、多様な便益が期待できる。

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