東北エネルギー懇談会

ひろば528号|特集 <要約版>

2025年 日本のエネルギー政策の展望と課題
(一財)日本エネルギー経済研究所 専務理事・首席研究員 小山 堅 氏

・国際エネルギー情勢が不安定化する中、暮らしや経済にとって不可欠なエネルギーの安定供給確保、すなわちエネルギー安全保障の問題が一気に重要性を増し、エネルギー政策の最重要課題になった。生成AIやデータセンターの大幅拡大で電力需要が大きく増加するとの見通しが広まり、まさに電力安定供給はエネルギー安全保障の中心課題となっている。

 

・2023年のCOP28では、2035年に世界の温室効果ガス排出を2019年比60%削減する必要があるとの方向性が打ち出され、世界はエネルギー安全保障と脱炭素化の両立という容易ならざる挑戦に直面する。エネルギー安全保障と脱炭素化のエネルギー転換によってエネルギーコストが上昇する場合、それを社会が十分に受け入れられるかどうかが問題になっているからである。今後は、エネルギー転換を進めつつ可能な限りエネルギーコストの上昇を抑制することが重要になる。

 

・さらに世界はもう一つ複雑な問題に直面している。米中対立に象徴される世界の分断の深刻化である。今や戦略的な資源や技術については、可能な限り国産化を進める取り組みが強化されている。再エネ・電気自動車・蓄電システムなどのクリーンエネルギー技術は、脱炭素化のエネルギー転換にとって極めて重要であるが、これらの製造能力や供給チェーン、またレアアースなど重要鉱物についても、中国の世界シェアは圧倒的に高い。エネルギー転換の進展に必要な戦略物資の経済安全保障問題が世界の重大関心事として浮上しているのである。

 

・2025年以降の国際情勢を左右する問題として世界が注目するのが「トランプ2.0」の影響である。トランプ大統領のエネルギー政策は、第1期政権時と同様に世界を大きく揺さぶっていくことになろう。その代表が気候変動政策であり、パリ協定から再離脱し、気候変動対策には後ろ向きになるだろう。それ以上に重要なのは、気候変動を巡る国際情勢への影響である。途上国からの米国など先進国への不満・批判が強まり、気候変動を巡る南北対立が激化したり、他方、途上国の側に立ち、独自のクリーンエネルギー投資促進を図る中国の存在感がいっそう高まることも考えられる。

 

・このように日本を取り巻く国際エネルギー情勢が厳しさを増している中、2024年末「第7次エネルギー基本計画(原案)」が公表された。政策の方向性としては、従来の「可能な限り原子力依存度を低減する」という方針から「原子力を最大限活用する」と大きく転換された。日本が目指す「2040年度におけるエネルギー需給の見通し」では、現行計画で低下するとしていた発電量が拡大する見通しに変わった。まさにここまで詳述してきた内外の新情勢に対応するための大きな変化である。今後「第7次エネルギー基本計画」は正式に定まり、日本はそこで示された「あるべき姿」の実現に向けて、官民の総力を挙げて取り組むことになる。

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