2023年10月10日、東北エネルギー懇談会主催による「親子で学ぶ!エネルギー見学バスツアー」が開催されました。エネルギー施設の見学や勉強会・テーブルトークを通して理解を深め、エネルギーの現状と未来について親子で考えてもらおうという企画です。施設見学は山形県西川町にある本道寺発電所と寒河江ダム。小中学生の親子5組10人が参加し、仙台駅東口から貸切バスに乗り込んで出発しました。
当日はあいにくの雨模様の中、バスは東北自動車道から山形自動車道へ入り、雨に煙る山並みを車窓に映しながら走ります。ガイドの方から、通過する土地のおいしいものや観光の案内を聞きながら、バスは名峰・月山の麓をめざします。西川町へ入ると高速道路から国道112号へ、さらに脇へ入ってくねくねとした山道へ。
すると突然目の前に「東北電力本道寺発電所」と書かれたトンネルが出現。発電所へ続く専用通路です。バスが余裕をもって通ることのできる広いトンネルは下り坂になっていて、ずんずんと下りていった先に発電施設がありました。驚いたことに、ここは山の中に巨大な空間をくり抜いて作られた「地下発電所」。周辺の自然環境への配慮と、豪雪地帯であることを考慮して山の内部に建設され、水力を活用して発電を行っています。バスを降りると空気がひんやり。「わぁ、大きい機械があるよ」「秘密基地みたい!」。異空間に迷い込んだような気分で、参加者は皆さんテンションが上がったよう。
案内してくださるのは東北電力(株)山形発電技術センターの村上雄二さん。はじめに、水力発電の仕組みと、実際に本道寺発電所でどのように電気が作られているか、解説いただきました。水力発電は水が高い位置から低い位置へ落ちる力を利用して水車を回し、その回転エネルギーを電気に変えていること、本道寺発電所は最大7万5000kW(一般家庭2万5000軒分)もの大きな発電能力を持っていることなどを学びました。「一番の特長は、電力需要に合わせてすぐに発電したり止めたりできること」と村上さん。これは他の発電方法にはない水力ならではの特長です。
「では実際に施設を見てみましょう」と村上さん。細い階段を降りた地下1階には「発電機室」があります。このときは発電機が停止している状態だったため、幸運にも内部を見ることができました。「中が暖かい…」と誰かがつぶやくと、村上さんが「いいところに気がついたね!少し前まで発電機が動いていたんだね」。発電機は24時間必要に応じて、いつでも運転・停止ができるように準備しているそうです。
発電機の下には地下2階へ太いシャフトが伸び、その下の地下3階に大きな水車があります。水車が一番下にあるのは、水の落差をなるべく大きくするため。巨大な管から62.5㎥/sという大量の水を流し込んで水車を回し、回転をシャフトに伝え、その上にある発電機を回す仕組みです。先ほど学んだ内容を実際に目で見て、皆さん「なるほど!」と納得の表情。
続いて「制御室」へ。制御デスクにはモニターが置かれ、人はいません。「本道寺発電所は通常無人で運転されています」との説明に一同びっくり。「東北6県と新潟県内の水力発電所を、福島県会津若松市にある水力運用センターで一括制御しています。万一、異常が検知されたときはすぐ山形市にある山形発電技術センター所員が駆け付けます」。その後、巨大な「調圧水槽」を見学。落雷などで急に停止した際に水車や発電機、土木設備を守るためのものだそう。あまりに大きく深い水槽をのぞきこんで「ちょっと怖い…」と苦笑いする人も。
ここまでで、本道寺発電所の見学は終了です。トンネルの入り口まで戻って振り返ると、そこには自然豊かな山と川の風景。「このトンネルの向こうにあんなに大きな発電所が丸ごと隠れているなんて、驚くね」と実感のこもった感想がこぼれました。
バスに乗り込み次に向かったのは、発電所に水を取り入れる「取水口」、月山湖と寒河江ダムです。ここでは4月下旬から11月上旬の期間、毎時0分に大噴水が上がります。ちょうど12時前に到着!ワクワクしながら湖面を見つめると…BGMとともに10分間の水のショーが始まりました。噴水は高くなり低くなり、カーテンのように風になびいたりを繰り返し最大112mの高さまで吹き上がり、歓声を誘っていました。
このあとは、道の駅寒河江「チェリーランドさがえ」へ移動、昼食とエネルギー勉強会です。
果物王国・山形の寒河江にある道の駅寒河江「チェリーランドさがえ」は、まさに果樹園に囲まれたロケーション。ここで昼食を食べた後、勉強会が開かれました。
第一部は、東北エネルギー懇談会・相澤敏也専務理事によるエネルギー講話です。「皆さん、エネルギーってそもそも何でしょう?」という問いかけから、講話はスタートしました。
エネルギーとは、物を動かしたり光や熱、音を出したりする色々な「はたらきの源」のこと。身の回りには電気やガス、ガソリンなどさまざまなエネルギーがありますが、今回は電気を考えてみます。
生活の中では、照明やさまざまな合図に使う「光を出すもの」、ドライヤーや電気ストーブ、エアコンなど「熱を出すもの」、オーディオや非常ベルように「音を出すもの」、掃除機や電気自動車などの「動かすもの」、その他最近ではパソコンやスマホ、ゲームなどさまざまな機能を組み合わせた使い方が増えてきています。
「本当だ、全部電気で動いてる」と声が出ると、相澤さんは「そうだよね。電気はいろいろな形の力に変えられる幅の広いエネルギーです」と話し、「もう一つの特徴は、同じ電気を作るのに多様な方法があること。午前中に見学したのは水力で電気を作る施設でしたが、他にも火力、原子力、太陽光、風力、地熱もあります」。
ここからは日本のエネルギーをもう少し詳しく見ていきます。まず、現在日本では約8割の電気が火力発電で作られていると説明がありました。
火力発電は昔から行われている便利な方法ですが課題もあります。一つは、石炭や石油を燃やすことにより地球温暖化の原因と言われる温室効果ガス(CO2)をたくさん排出すること。もう一つは、燃料のほとんどを輸入に頼っていて、世界情勢によって供給が不安定になりかねないこと。「まさにここ最近もロシア・ウクライナ問題の影響でエネルギーの値段が高騰していますし、中東情勢の変化も気がかりです」と相澤さんが話すと、「ガソリン代もすごく高いもの!」とお母さんたちも顔を見合わせていました。
一方で太陽光、水力、風力、地熱はもともとある自然の力を活用した「再生可能エネルギー」で、原料を輸入する必要もなく、温室効果ガス(CO2)をほとんど排出しません。「では、全部を再生可能エネルギーにすればいいと思いますよね」と相澤さん。中でも太陽光発電は近年急激に増えており、日本の導入容量は世界3位、国土面積あたりでは世界1位であることが紹介されると参加者からは「すごい!」「もっと増やせばいいんじゃない?」と明るい声が。
しかし相澤さんは「ここにも課題があります」。山林を切り開いて無計画にソーラーパネルを設置すれば自然環境や景観への影響が懸念されることや、将来にわたって設備管理を継続できるのかといった課題、パネルはほとんどが輸入に頼っている現状の説明がありました。
他にも、太陽光や風力は気象条件によって発電できず、水力や地熱は発電に適した場所が限られていて大量に設置するのは困難であるなど、不安定な要素が多いのが現状です。
また原子力発電については、ごく少量のウランから大量の発電が可能であるというメリットが説明されました。発電時に二酸化炭素を出さないことに加え、燃料の使用量も少なくて済むため、安定性とコストの面から有力な発電方法のひとつです。エネルギー自給率が13.0%(2021年)と非常に低い日本において、安全性の確保を大前提に原子力発電を活用することも対応策の一つといえます。
このように見てくると「これ一つで日本全体のエネルギーは大丈夫」という万能の発電方法はないことが分かります。そこで、いくつかの方法をバランスよく組み合わせますが、これを「エネルギーミックス」と呼びます。
日本政府は「2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする)の実現」を目標に掲げており、これを叶えるにはCO2排出量の削減、つまり火力発電の割合を減らすことが不可欠。ではこれから未来へ向けて、どのようにエネルギーを組み合わせていけばよいでしょうか。
エネルギーを考えるうえで大事な視点は、次の4つです。
- 安全性:もっとも重要であり、大前提となることがら
- 安定性:安定的に供給できること
- 経済性:コストがかかりすぎないこと(電気料金に影響がある)
- 環境性:CO2排出量が少ない、地球環境に配慮されること
電気は性質上、「使う量と作る量が常に一致」しなければなりません。そのため発電出力は、人の生活や産業活動、気象条件等に合わせて常に詳細に計算され、各発電所にどのくらいの発電を行うか指令が行きわたっています。太陽光のように条件によって変動する発電出力を、本道寺発電所で作る水力発電のようなすぐに調整できる方法でカバーする必要があるのです。
講話はここまで。第二部の「テーブルトーク」では、参加者全員がエネルギーミックスについて考え、お互いの意見を聞いて議論を深めていきます。