2024年8月2日、東北エネルギー懇談会主催による「親子で学ぶ!エネルギー見学バスツアー」が開催されました。エネルギー施設の見学会や勉強会を通して、エネルギーの現状と未来について理解を深め、親子で考えてもらおうという企画です。施設見学先は七ヶ浜町に立地する東北電力(株)仙台火力発電所・仙台太陽光発電所。真夏の太陽がまぶしく照りつける中、小中学生の親子5組10人を乗せたバスが仙台駅東口を出発しました。
バスは国道45号を東へ。ガイドの方から、創建1300年を迎える多賀城の歴史や、歌枕「末の松山」のエピソードを聞きながらどんどん進んでいくと、車窓には美しい海が広がってきました。その後まもなく仙台火力発電所に到着。白壁と瓦葺屋根の外観に、参加者は少し驚いた様子でした。
早速、発電所内の会議室で火力発電の概要について学びます。「今日の見学では3つのことを知ってほしい」。冒頭の挨拶を行ったのは、東北電力(株)仙台火力発電所の今井達夫所所長。
「1つめはコンバインドサイクル発電について。昭和34年に誕生したこの発電所は、平成22年に発電用燃料を石炭から天然ガスへ変え、環境に配慮した発電方法へ生まれ変わりました。2つめは建物の外観について。特別名勝・松島の一部に含まれる立地に配慮し、白壁と瓦葺屋根からなる『蔵』をイメージして景観との調和を図りました。3つめは併設する大規模太陽光発電設備について。燃料を使わず、CO2を排出しないで発電できる反面、天候に左右され夜間は発電できない弱点があるため、火力発電で調整しながら安定供給を行っています」。
続いて、総務グループ専門役・我妻典夫さんの電気・エネルギー講座がスタート。「まず、発電の原理を体験してみましょう」と、銅コイルと磁石を組み合わせた器具を取り出しました。参加者が手でシャカシャカと振るとランプがつき、電気が生まれたことが分かります。
「でも縦に振り続けるのは疲れますよね」と我妻さん。「そこで昔の人は、ぐるぐる回すほうが楽だ、と気づいたんだね」。やがて研究が進み、水力、風力、地熱、原子力など現在使われている発電方法が次々と開発されました。
火力発電は燃料を燃やした熱で水から蒸気をつくり、その蒸気の力で発電機につながったタービンを回転させて電気を作ります。「では実際に模型を使って発電の仕組みを見てみましょう」。圧力釜(ボイラー)から発生した蒸気でタービンが勢いよく回りはじめました。その後、送電塔を通して工場や家屋に電気が点灯!「わぁ!本当に灯りがついた!」目の前で実際に電気が作られる様子を見た参加者は、すっかりテンションが上がった様子です。
我妻さんのお話は、仙台火力発電所の特徴へと続きます。
「高度成長期の電力需要に応えて急速に発展した火力発電ですが、近年ではCO2の排出が課題となっています。仙台火力発電所では、これまで使用していた石炭から環境に優しいLNG(液化天然ガス)に燃料を転換しました。ばいじんや硫黄酸化物を排出しません。そして最大の特徴は、『コンバインドサイクル発電』といって、ガスタービンと蒸気タービンの2つを組み合わせることによって、効率よく電気を作っていること。高温の燃焼ガスと蒸気の2つの力で世界最高クラスの熱効率を実現し、CO2排出量を石炭火力に比べ約60%削減しました」。
仙台火力発電所の隣地には仙台太陽光発電所があります。会議室の窓から見ると黒いパネルがどこまでも連なる広さ。「敷地面積は東京ドーム1個分、47,000㎡の広さです。そこに太陽電池モジュールが11,072枚設置されていて、最大出力は2,000kW。 一般家庭約700世帯分の電気をまかなえます」と我妻さん。
会議室には実際のものと同じ太陽電池モジュールがあり、参加者は交代で実際に触ってみました。「案外薄いんだね」「パネルの色は全部黒なんだ!」。
日本では再生可能エネルギーの導入が進んでおり、特に太陽光発電は世界第3位の導入量。東北でも太陽光発電の利用拡大が進み、再生可能エネルギーを積極的に活用しています。
「電気の特徴は、貯められないこと。電気を安定して使うには、常に消費量(需要)と発電量(供給)を同じにする必要があり、需要と供給の差が大きいと大停電を起こしてしまいます。再生可能エネルギーはCO2を出さないクリーンな発電として最近急増していますが、気象条件等で発電量が変わる不安定な電源でもあるので、消費量にあわせて調整する必要があります」と我妻さん。
「その調整役が実は火力発電。再生可能エネルギーが増えるほど、火力発電の調整力が重要になってきます。本日は天候が良いため、いま、仙台火力発電所では発電を停止しています」。
説明を聞いた一同は「え~っ!?」「そうか、今日はすごく晴れているよね。太陽光発電で電気をたくさん作っているから、火力発電は止める必要があるんだ!」と誰かが気づきました。
「ちなみに仙台火力発電所は、仙台太陽光発電所の1年間に発電する電力量を、約4.5時間で発電します」との説明に、参加者はさらにびっくり。
火力発電はCO2の排出量が課題となっているけれど、一度にたくさんの電気を作ることができて、また発電量を調整しやすいという長所があります。太陽光発電は発電時にCO2を出さないけれど、気候や自然に左右されて不安定。それぞれの発電方法には長所も短所もあることを学びました。
その後、参加者はヘルメットをかぶり、実際に施設を見学。発電所内部へ入っていくと「コンバインドサイクル発電」の要となる大きな設備が見えてきました。「発電設備はガスタービン、蒸気タービン、発電機があります」と我妻さん。年間で宮城県全体の一般家庭92万世帯分をまかなう発電力があるそうです。
階段を降りて、次は「中央制御室」、発電所の頭脳部分にやってきました。大画面のモニターやたくさんのパソコンが並んでいますが、人は少ない印象。「石炭を使っていた時代は20~30人で管理していましたが、現在は自動化が進み3人体制で管理をしています」。
次に、建物を出て巨大なパイプや鉄骨、タンクの間を潜り抜け、別棟へ。エレベーターで屋上に出ると、松島湾の絶景が広がっていました。「わぁ、気持ちいい!」「松島が見えるよ」「遊覧船も!」。
日本三景松島の景観や環境への配慮で、白壁と瓦葺屋根の蔵をイメージして建てられた仙台火力発電所。「煙突の高さは59mです。赤白のしま模様のデザインではないのも特徴です」と我妻さん。
発電所の見学を終え、我妻さんが近くの代ヶ崎浜へ案内してくれました。目に飛び込んできたのは、防潮堤を大胆に彩る、おはじきを使った壁画!いつ、どのようにしておはじきの壁画ができたのか、プロジェクトの中心的存在として協力している我妻さんのお話に耳を傾けます。
「震災後、人々の命を守るために防潮堤が建てられましたが、出来上がったそのコンクリートの防潮堤は無機質で味気ないものでした。それを見た地元住民は、『防潮堤は有事の備えであると同時に、海の豊かさを想わせるものであってほしい』と考え、防潮堤を活用して、将来、町の子どもたちが自慢できるふるさとにするため、復興への想いを胸に様々なアイデアを出し合いました。
『防潮堤にみんなで絵を描いたらどうか?』『でも年数と共に色褪せたら見栄えが良くないよね。また描き直しも大変だし』『防潮堤にタイルを貼るのもありか?でも割れたら怪我が心配』『掛けたり壊れたりしにくい、おはじきはどうだろう!丸くてキラキラ輝いて、みんなで貼ったら楽しそう!』こうして、2019年、おはじきアートがスタートしました」。
我妻さんからの説明を聞きながら、参加者は防潮堤に広がる「おはじきアート」を興味津々で眺めます。色とりどりの魚、こいのぼり、豪華けんらんな御座船……太陽の光を受けておはじきがキラキラ輝き、本当にきれい。
「七ヶ浜で生まれた魚たちが大海原へ出て冒険し、やがてふるさとに帰るストーリーを絵にしました」。このおはじきアートには、幅100mに15万個のおはじきが使われているそうです。完成後、今度は「過去へ戻っていくストーリーを描こう」とさらに制作を続け、6年目の現在も進行中だそう。
参加者たちは、実際におはじきアートの制作を体験。七ヶ浜で盛んな海苔養殖の「海苔網」の絵柄に深緑色のおはじきを貼り付けていました。その後は、波の絵の前で波乗りポーズをしたり、クジラに抱きついたりしながら思い思いに写真を撮って楽しみます。熱い夏の日、我妻さんの熱いトークが心に残りました。
昼食は海の幸がおいしい「七ヶ浜うみの駅 七のや」で海鮮丼に舌鼓。その後、海岸線を散歩したり、カフェで自家焙煎珈琲を飲んだり、土産物屋をのぞいたりそれぞれに過ごし、またバスに乗って、海に臨む施設「アクアリーナ」へ。午後はこちらでエネルギー勉強会です。
エネルギー勉強会の前半は、「CN2050 〜脱炭素ボードゲーム」を体験。男子チームと女子チームに分かれ、カードで遊びながら未来の暮らしをより良くする行動をみんなで考えました。
このゲームは、すごろくのゴール(2050年)までに地球を覆うCO2をなくすことを目標に進みます。カードに示された行動を選ぶことで、ボード上のCO2が増えたり減ったりするため、みんな真剣な表情で知恵を出し合いました。冷蔵庫の開け閉めや冷暖房の使い方、住宅の設備投資など、身近な脱炭素のヒントを知ることもできます。結果は、男子チームが見事カーボンニュートラルを達成!女子チームと共に多くのことを考え、学びました。
続いて、東北エネルギー懇談会の後藤宏専務理事による「エネルギー講話」。事前に配布された「エネルギーのミライ学習BOOK」で予習をしてきた親子は、皆さん熱心にメモを取りながら聞き入りました。
最初のテーマは、日本のエネルギー自給率。日本はエネルギー資源に乏しく、火力発電の燃料となる化石燃料のほとんどを海外から輸入。日本のエネルギー自給率はわずか約1割というのが現状だそうです。
「自給率が低いということは、海外で問題が起きれば即、影響を受けるということ。非常にリスクが高い」と後藤専務。産油国が集まる中東の情勢は緊張が続いており、ロシアのウクライナ侵攻の影響による化石燃料の国際価格が急激に高騰したことは記憶に新しいところです。現在も火力発電に大きく依存する日本では、カーボンニュートラル実現に向けて、CO2排出量の削減に取り組まなければなりません。
それでは、発電時にCO2を排出しない再生可能エネルギーで全てまかなえばいいのでしょうか。
「太陽光発電が季節や気候、時間帯によって大きく変動することは、午前中に学びましたね。発電方法には、火力発電、太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる発電、原子力発電などがありますが、それぞれに良いところと課題があります」と後藤専務。
参加者は、見学会で学んだ火力発電、太陽光発電のそれぞれの長所と短所について振り返ります。
「万能で完璧な発電方法は今のところありません。そのため、様々な発電方法をバランスよく組み合わせて使う『エネルギーミックス』という考え方が大事です。人間も同じですよね。パリオリンピックで金メダルに輝いた団体種目のように、それぞれが自分の得意分野で力を発揮し、大きな成果を上げたことを思い出してください」。後藤専務のタイムリーなたとえに「なるほど!」と一同納得。
「日本ではこの『エネルギーミックス』を進めていることを、ぜひ覚えていてください」。エネルギー講話では、後藤専務からエネルギーの大切なキーワードを学びました。