コラム
地域を救うのは観光しかない
奥会津郷土写真家
星 賢孝 さん

只見線の魅力を写真で海外へ発信
只見線の魅力を写真としてSNSなどで発信し、海外の観光客を日本に呼び込むインバウンド推進の立役者。金山町在住。地元の建設会社に47年間務め、在職中から独学で写真に取り組み、奥会津郷土写真家として活躍しています。
写真で地域活性化に取り組むのは、「自分が選択したのではなく、今考えると、神様から運命づけられたように感じる」とも。地元を愛した両親の思いを胸に、地域を守る揺るがぬ信念を育んできた星さん。そのきっかけの一つは、公共工事の入札制度の大幅な変更に伴い、県内の同業者の疲弊を目の当たりにして、地域経済そのものが衰退していく現実に直面したことでした。「地域を救うのは何かを考え、もはや観光しかない」と思うに至り、それから30年間、年300日以上写真を撮り続けています。「只見線の自然景観、四季は他所にない素晴らしいもの。これをPRするほかない」と誓い実践中です。
一方、2011年7月には、集中豪雨で只見線は甚大な被害に見舞われました。当時は復旧工事は行わず、廃線やむなしという声も強かったようです。しかし、星さんが続けた海外への情報発信などが功を奏し、特に日本に友好的な台湾で受け入れられ、只見線の沿線では絶景を撮ろうと県道・町道などを歩く外国人の存在が目立ってきました。地元の人々もそうした変化を意識し、むしろ只見線の存在価値を自らが再認識することにつながったようです。「只見線は自分たちの財産だと気づき、復旧を応援しなくては」という機運が高まったのです。
只見線は2022年10月から全線運転を再開。今はインバウンドの勢いがさらに増しつつあります。現在アプローチをかけるのは台湾中心ですが、「いずれはヨーロッパや米国へも広げたい」との目標を掲げます。アジアは既にベトナムのほか、タイ、モンゴルにも足を運びPRを展開中で「やるべきことはまだある」と意慾を燃やしています。幸いにして、地元の沿線住民の意識も只見線を盛り上げようと前向きに変化しつつあります。星さんは今後も撮影スポットの整備などに取り組むとともに、お客さまの目線を大切にした地域活性化に努めていく考えです。
特色あるレトロな街並みを
七日町通りまちなみ協議会
副会長
庄司 裕 さん

地域資源を磨く30年の歩み
会津若松市で1971年から様々な企画デザインを手掛ける会社を営む庄司さん。地元の七日町通りをレトロなまちなみで活性化させる活動を進めてきました。
そのきっかけは約30年前、店舗の3軒に1軒が空き屋になるほど、買い物客が消え、さびれつつある七日町通りをなんとかしたいという思いで、新たなまちづくりに挑戦するため七日町通りまちなみ協議会を設立。庄司さんはその立ち上げメンバーの1人です。「七日町は大正・昭和初期の古き良き建物が多く残っていて、これを地域資源の宝物として磨き、特色あるレトロな街並みにしようという運動を始めました」と振り返ります。小江戸として有名な埼玉県の川越をはじめ、全国各地の街並みも視察し、七日町では歴史的建築物の外観を昔の風情に戻す活動を本格化。商店街に呼びかけ、息の長い取り組みを展開してきたといいます。
30年の歩みは試行錯誤の連続だったとか。活動が停滞する時期もあり、その時は「手をこまねいていてはダメ」と自らに言い聞かせ、努力を惜しまなかったそうです。
いつしか七日町がマスコミに取り上げられる機会が増え、次第に観光客も増えていきました。そして、「空き店舗を貸してほしい、ここで商売をやりたいという人も出てきました。非常に良いスパイラルが生まれるようになりました」と手応えを感じることも。
現在、会津若松市には年間300万人の観光客が訪れます。七日町はその5分の1に相当する年間60万人が訪れているというデータがあります。相当な成果を挙げてはいますが、さらに今、新たな魅力づくりで目をつけているのが茶の湯です。蒲生氏郷にまつわる茶道文化に着目し、まちづくりに活かす考えです。庄司さんは、「まちづくりは人づくり」と指摘し、若手への期待を膨らませています。「後継者を育てるというのは、おこがましいですが、むしろ僕らは素材を用意したので、あとはこれをどう料理するか、若い世代に委ねたいと思います」と未来を見据えています。

どうしてもお茶の仕事がしたい
抹茶専門カフェ 濃い春
小濃 夏美 さん

美味しい抹茶を気軽に楽しんで

福島県南の浅川町の出身。幼い頃から抹茶のスイーツが好きだったといいます。大学卒業後、リゾート開発などを手掛ける企業に就職しましたが、「抹茶が好きだったので、お茶にかかわる仕事がしたい」との思いを秘め、調理師免許を取得したり、茶道を学んだり。5年後に会社を辞め、一時地元に戻り小学校の先生を務めましたが、「どうしてもお茶の仕事を始めたい」と2023年3月に退職。本場の宇治茶を学ぶため、5月から3カ月間、京都府の南山城村に単身乗り込み、茶摘みの現場などを経験。問屋、農家とのつながりも得ました。
その間、「京都の美味しいお茶を福島の人に広められたら」と考え、福島県内で開業の場所を探し、その中で「会津は京都とお茶のつながりが深いということを知りました」。歴史ある城下町は抹茶との相性も良いと感じ、7月末には会津若松市の七日町に物件を発見。そして念願の抹茶専門カフェ「濃い春」が10月14日にオープンしました。開業準備は非常に慌ただしく、「今思えば勢いでやってしまって、失敗の可能性もあったかもしれません」と振り返ります。自らの努力だけで乗り切ったわけでなく、様々な起業支援など、会津の人の面倒見の良さに助けられたと感謝の気持ちも。メニューはドリンクとデザートに絞り、「一番の目玉はお客さまの目の前でお抹茶をたてること」。抹茶は酸化しやすく光や熱に弱いため、開けたて、たてたてを楽しんで欲しいとの願いから。今後の目標は「コーヒーを飲むぐらい、お茶や抹茶を楽しんでもらいたい。そのため、お茶をたてるワークショップを開催したり、いっぱい心を込めてお茶をたてたり、シンプルなことを一生懸命やりたいです」と明るく前向きです。

抹茶専門カフェ 濃い春
抹茶ラテ・抹茶テリーヌ
本場の宇治抹茶を使用。抹茶ラテは、注文を受けてから抹茶をたて、別の器に入れて提供されます。牛乳の入ったコップに後から注ぎ込む形となります。新鮮な抹茶を目の前でかき混ぜ、抹茶ラテが完成する様子も楽しめます。抹茶テリーヌは濃厚。ほどよい苦さとしっかりした甘さで、ねっとりした食感はインパクトがあります。
山塩の味わいを大切に
会津山塩企業組合
代表理事
栗城 光宏 さん

雇用・集客で地元へ貢献
学生時代から大好きな音楽に携わってきた栗城さん。2009年春、縁あって、それまでまったく知らなかった山塩の世界に飛び込みました。
発足間もない会津山塩企業組合で働き始め、製造・販売など様々な業務を経験する中、ある時、販売した山塩の味について、「前買った時のものとは違う。こんな味だったら買わない」という厳しいクレームを受けます。そんな経験などから「しょっぱいだけではない味わい」をより強く意識し、仕事に打ち込むようになりました。そして、たどりついたのはカルシウムやマグネシウムなどの温泉成分の割合の問題。ナトリウムとの最適なバランスを求め、2011年頃、「それを安定的に生産するには、どうしたらのよいのか、手探りでやってきて、ようやく分かってきた」と振り返ります。薪窯で温泉水から塩の結晶を作る「塩取り」の工程がかぎでした。
様々な塩づくりを見学し、専門家のアドバイスも受けましたが、「何も知らず、分からないからこそ、あっちこっちに行ったり、『これはどうすればいいんですか』と聞きながら、今までやってきました」と話します。そうした努力の積み重ねで、会津山塩独自のノウハウが培われました。
2018年には生産設備も大型化し事業拡大に努めてきましたが、うれしい悲鳴と言うべきか、現状は高まる需要に応えるだけの対応が実現できていないとのこと。その解消を目指すべく、手作り故の効率性、労働環境や人材確保なども検討しながら、栗城さんは次の目標を模索しています。将来に向け、「地元への貢献として、雇用の機会を作り、山塩があることで北塩原に人が訪れるような流れが作れたらと思っています」との抱負も。「地元の北塩原や会津だけでなく、福島県を代表する会津山塩と言ってもらえるような事業にしていきたい」と意欲を示します。


地元食材でラーメンを
活力再生麺屋
あじ庵食堂店主
江花 秀安 さん

しじみのスープが人気
2008年8月8日、小さな店舗ながら「活力再生麺屋 あじ庵食堂」をオープン。その後2回の移転を経て、2021年に喜多方駅から南東に徒歩10分の場所にある現在の店舗へ。老舗や有名店など、喜多方ラーメンの味を競い合う激戦地にあって、地元から高い評価を得ています。
江花さんは、故郷への熱い思いを大切に、麺とスープに強いこだわりを持っています。「生まれ育ったまちの歴史を知り、なるべく地元の食材を使う」のが持論です。
旧塩川町(現喜多方市)出身。その歴史をたどる中、内陸ではめずらしく塩川はしじみの産地だったということを知ります。これをラーメンづくりに生かそうと、星醸造とコラボしながらスープを極めました。メニューとしては山葵潮(わさびしお)ラーメンを提供し、人気を博しています。「かえしに使われているしじみの味がグッとくる美味しいスープ」「喜多方特有の太縮れ麺にしじみダシが良く合う」など、ネットの口コミでも絶賛されています。ただ、ことさら注目を浴びて競争を勝ち抜ぬくような派手なパフォーマンスを嫌い、自然体で真摯にラーメンに向き合う江花さんの姿勢が印象的です。「自分の味を信じているので、特にまわりを意識したことはありません」とも。
現在は郡山市にも出店。忙しい日々を送っています。今後の夢は、「喜多方ラーメンに使う食材すべてが喜多方でまかなえたら、喜多方ラーメンの価値は自然と上がって、すべての人が笑顔になると思う。だから、もっともっと自分自身は頑張ろうと思います」と答えてくれました。



会津塩川しじみ潮だし
星醸造
しじみ潮だし
星醸造は喜多方市内、歴史を感じる街並みのおたづき蔵通りにあり、創業は明治時代。醤油、味噌、業務用ではラーメンスープに力を入れています。旧塩川町(現喜多方市)がしじみの産地だったという伝承から、ラーメンスープ用などに最適な「会津塩川しじみ潮だし」を商品化。凝縮されたうまみと、お酒好きには肝臓をいたわる効果が受けています。