エネルギーセミナーを終えて
フリーアナウンサー 舟倉薫

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 COP26の開催期間と重なったこともあり、「脱炭素」「未来のエネルギーをどう考える」というワードが耳目を集めるなかでのエネルギーセミナー開催でした。しかし、暮らしや仕事の忙しさに追われ、あっという間に過ぎていく日々のなか、「国を代表する研究者や政治家よ、もっとがんばってくださいよ~」と委ねてしまっていた自分がいました。目覚めの一杯のための湯沸かしケトルも、冷え込む朝にお尻から温もりをくれる暖房便座も、電気が無くてはならないにも関わらずーー。
 今回、発電所で現場の声を聴いたり、専門家から日本のエネルギー状況について伺ったりしたことで、視野を広くもち想像することができました。「想像すること」。スイッチひとつで使える環境で育った私たち世代は、電気が安定して使えなくなるかもしれないことなど、おそらく想像したことはありません。今回、同世代の女性たちとともに学び、語り合うなかで、「想像することこそ、現状を変える小さくも大きな一歩だ」と強く感じました。
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 初日に伺ったのは、東日本大震災後に整備された商店街「シーパルピア女川」。女川自慢の海産物を堪能し、商店の方々との会話を楽しんでいると、あっという間に時間が過ぎます。海岸広場ではことし完成した、海の生きものがモチーフの遊具で遊ぶ子どもたちの歓声が響いていました。一方、昨年、震災遺構として公開された旧女川交番の近くまで足を運ぶと、鉄筋コンクリート造りの建物が引き波で横倒しになった姿のまま、津波の恐ろしさを伝えていました。震災から10年が経ち、この街で生きる人々の復興の歩みを感じるとともに、忘れてはならない災害の記憶を胸に刻んだところから、エネルギーセミナーは始まりました。
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 初めて訪れた女川原子力発電所。工事現場へ向かう車内でも、何とも言えない緊張を感じていました。東京電力福島第一原発の事故以降、原子力発電に対する漫然とした恐れを抱いていたのが正直なところです。知らないから、不安。知らないから、怖い。というのは私だけではなかったようです。今回は、2011年以降停止している2号機3号機の安全対策工事現場を間近に見学しました。
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 最も印象に残ったのは「安全対策に終わりはない」という担当者の声です。福島で起きた「想定外」の事態を許さない、備えへの姿勢を感じました。3.11で震源に最も近かった女川原発が無事だった理由ーー。原子炉を「止める」、燃料を「冷やす」、放射性物質を「閉じ込める」が機能したことは決して偶然ではなく、災害を想定して何重にも設備の対策をしてきたからだと、自分の仕事への誇りをもって話す姿が印象的でした。この担当者もまた、私たちと同じく、宮城に大切な家族が住んでいて、地域のことを愛する気持ちにあふれる方でした。
 防潮堤を間近で見上げるとその巨大さに圧倒されます。海抜29メートル、全長約800メートルにも及ぶ壁は、一度完成となるも「新たなリスクの視点」が指摘されたことで再び作り直しているとのこと。万が一の安全対策に終わりはない、を目の当たりにしました。
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 2日目は、三居沢発電所へ。仙台の中心部から車で15分ほどしか離れていない市街地に、歴史的な水力発電所があるなんて!?しかも130年以上経つ現在も現役で働いているなんて!?驚がくです。広瀬川の流れを利用しエネルギーを作りつづけてきた発電機のごう音は、迫力でした。
 東北で初めての電気のあかりは1888年。冒頭にも記したように、あまりにも当たり前に使っていた電気のありがたみを教えてくれる場所でした。ちなみに、冬には凍る滝、春には咲き誇る桜の名所となるそう。こんな身近に、電気を体感できる場所があるのだからぜひ訪れてほしい。
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 そして、セミナーのまとめとなる講話&テーブルトークへ。東北エネルギー懇談会 専務理事 相澤敏也さんによる「求められる電源のベストミックス」をテーマにした講話では、日本という資源の乏しい島国で、将来的にどうしていくべきなのかを考えるための視野を広げていただきました。
 石炭、天然ガスなどの火力発電、原子力発電、太陽光や風力などの再生可能エネルギー等、それぞれにメリット・デメリットがあり、完全無欠な発電方法は無い。「最適なバランスを探ることが必要だ」と伺った時、はたと気づきました。これは、ラジオ局での番組づくりと同じではないか?スタッフそれぞれに得手・不得手があることを承知したうえで、最大限に個々の力を発揮し、チームとして最大の価値を生み出すーー。きっと、どんな仕事であってもチームとはそう出来ているはず。メンバー1人だけに過度に業務が偏らないように配慮することも重要なリスクマネジメント。エネルギーミックスも同じですね。その際、よく知らない相手と組むことに対する不安というのは人同士だってあるのだから、エネルギーに対してももちろんある。だからこそ、私たちはまずは知ること、想像することから始めなければならないのだと思うのです。短絡的に「絶対にこれはダメだ」「この人とは絶対に分かりあえない~」と言い切ることは、想像を止めてしまっているのではないでしょうか。
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 今回、同世代の女性参加者の皆さんとの懇談会でも、そんな声が聞かれました。みんな口々に「自分事として捉えられていなかったエネルギーについて知ることが出来た」「知るきっかけになった」と話していました。私もまさにそう!各現場で、誇りをもって働く“人”を通して得られた情報は心に深く残り、考えを深めるための材料になりました。
 東北エネルギー懇談会の皆さんには、こうした機会を今後も継続的に設けてほしいと願います。
 最後に、これから子育てに取り組むかもしれない私たちが、大切な子ども・孫・ひ孫の世代にわたって安心してエネルギーを利用できるように、知識を深め、想像していきませんか?
Profile
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仙台在住のフリーアナウンサー。
石川県出身。震災報道に携わりたいと志願し、2013年に宮城へ移住。
NHK仙台放送局「てれまさむね」でキャスターを4年間務め、2017年よりフリーアナウンサーに転身。
現在は、ラジオパーソナリティとしてFM仙台「Morning Brush」木曜金曜を担当するほか、音楽コンサートMCやイベント司会、ナレーションなど幅広く活動中。

(2021年12月現在)