第1部〜講話「求められる電源のベストミックス」〜
東北エネルギー懇談会の相澤敏也専務理事から「求められる電源のベストミックス」と題した講話を聞きました。まず、将来的なエネルギー政策のあり方を考えるためには「3E(エネルギーの安定供給・経済効率性の向上・環境への適合)+S(安全性)」の視点が大切だと学びました。日本が目指す電源のベストミックス
発電所で使われる電源には、火力や原子力、水力や太陽光などの再生可能エネルギーがありますが、今の技術ではすべてにメリットとデメリットがあります。それぞれの電源の特徴を把握しながら、最適な組み合わせ=ベストミックスを構築していくことが重要です。「ベストミックスとは世界共通ではなく、それぞれの国の状況や気候など多様な視点から構築されるべきものです。また、世界情勢や技術革新等によって、ベストミックスのありようは変わっていきます」「2030年には温室効果ガスの排出量を2013年度と比較して46%削減する目標になっています。目標達成のためには、省エネルギーが大きなカギです。消費者もできるだけ省エネ型の住宅や家電を選ぶ等して省エネルギーを徹底して進めていく必要があります。
簡単ではありませんが、国と企業、消費者の行動が噛み合っていけば、技術革新に結びつく好循環が生まれるのではないでしょうか」
消費税1%にも匹敵する再エネの「賦課金」
また、2019年と2030年の電源構成を比較すると、再エネが占める割合が、現在の2倍程度に伸びていました。そこでポイントになるのが、再エネの電気を電力会社が固定価格で買い取るために、電気の利用者から集められる「賦課金」です。固定価格買取制度の導入後、再エネの設備容量の増加に伴い、賦課金の金額は伸び続けていました。普段、電気料金の総額は気にしても、その中身まで意識することは少ないのではないでしょうか。「2019年の賦課金の単価は2.95円。通常の家庭で1ヶ月の電気の使用料を300kWhとすると、賦課金は1ヶ月で885円。1年では1万620円になります」。
日本全国で考えると、賦課金だけで2.4兆円。消費税1%に匹敵する金額になっていると聞いて、驚きました。
国民一人ひとりの協力が必要なエネルギー政策を
「家電製品の選択などの消費行動が変わることで、消費者一人ひとりの力は小さくてもエネルギー政策全体に影響を及ぼしていきます。国民の意思を反映したエネルギー政策を実現させるためにも、多くの方々に関心を持って頂きたいですね」と相澤専務理事。エネルギーのあり方は、私たちの生活に直結するだけではなく、国の将来にとっても重要だと訴えました。第2部〜テーブルトーク〜
エネルギーを考えるきっかけに
トップバッターは舟倉さんです。セミナーを通して最も印象に残ったことは「女川原子力発電所の安全対策」だそうです。「工事現場を見せてもらいましたが、一度、完成した防潮堤でも、新たなリスクが指摘され、改めて作り直しているところがありましたよね。現場の方の『安全対策に終わりはない』という言葉に感銘を受けました。『これまで何も考えずに電気を使い過ぎていたな。暮らしの中でエネルギーがどうあるべきか、考えなければならない』と恥ずかしくなりました」。続いて、ひとりずつ施設見学を終えた感想を話していきます。初めて原子力発電所や水力発電所の施設を見学した人も多く、「仙台に住んで長いのですが、初めて水力発電所が街中にあると知りました」「電気の作り方、あり方について考えるきっかけになりました」などと、エネルギーについて考える良いきっかけ作りになったようです。
小さな対策の積み重ねが大きな安全をつくる
1回目の女川原子力発電所の見学で最も印象に残ったことには、舟倉さんと同じく「安全対策」を挙げる人が多くいました。最初は、福島第一原子力発電所の事故や原爆を重ねて、「怖い」「危ない」イメージを持っていた人も、実際に安全対策工事の様子を目にして説明を聞くと、「とにかくひたすら安全をつくっているという印象を抱きました」「ここまで安全を求めて、日々努力されていることに驚きました」「ひとつひとつ小さいものの積み重ねで大きな安全ができていると感じました」と言います。参加者は、何より、第一線に立って安全対策に取り組む人と接したことで、「この人たちが作る電力だったら、安心して使えるなと感じました」「安全対策をしっかりすれば、現実的に使っていけるエネルギー源なのだと強く感じました」など、安心感に繋がったことを明かしてくれました。
昨年の秋、日本は2050年までに「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。ニュースなどを通して「カーボンニュートラル」「再生可能エネルギー」などの言葉を耳にする機会が増え、「なんとなく再生可能エネルギーを増やしていけばいいと考えていた」と話す人もいました。けれど、水力発電所の施設見学や相澤専務理事の講話を通して、天候や立地の制約を受ける再生可能エネルギーのデメリットを知り、エネルギーミックスの重要性を実感したということです。
エネルギーについて「知る・学ぶ」重要性を実感する
今後に向けて、「エネルギーを正しく理解することで、自分たち自身のオリジナルの対策なども考えられる時代も来るのかなと思いました」「この電気がどこでどうやって発電されたのか、全然知らずに過ごしていたので、普段の生活で想像しながら過ごしていきたいです」「どうやって電気ができるのか、下流から上流を見られるようになると、変わっていくと思います」など、多くの参加者がエネルギーを「知る・学ぶ」重要性に言及していました。さらに、自分だけではなく、周囲の人たちに今回のセミナーで学んだことや東北エネルギー懇談会の活動についてシェアしたいという意見も出ていました。参加者の熱心な発言に、相澤専務理事は、「皆さんから大変力強いお言葉をいただいて、企画して良かったなと思いました」と手応えを感じていました。さらに、「これまで加入会員の企業様や団体様向けに施設見学会を行ってきたが、女性の方々を対象にしたセミナーは初めて。ホームページや広報誌に今回の模様を掲載するので、ぜひ、女性同士の口コミの中で、広めていただけたら有り難い」と話し、期待を寄せていました。
蓄電池や再エネの買取価格についての質問が寄せられた
最後は、これまでの内容を踏まえた質問コーナー。まず、舟倉さんが「水力発電所も水量によって発電量が影響を受けるというデメリットを聞きましたが、蓄電池に関してはどうでしょうか」と質問しました。それに対し、相澤専務理事は「電気は使う量と発電する量をその瞬間で一致させないと電圧や周波数が変わってしまい、電気の品質が悪化します。その意味で蓄電池で電気の過不足を調整すれば良いのですが、現状では、蓄電池の性能やコストの問題があり、大規模に活用するまでにはさらなる技術革新が求められます。勿論スマートフォンなど、小規模な蓄電池については皆さん便利に活用していますが、残念ながら規模が全く違います」との見解を示しました。また、参加者からは「固定価格買取制度の買取価格は、そもそも誰が決めているのか?」という質問も出ました。それに対し、相澤専務理事は制度が導入された経緯やその狙い、買取価格の決定に至るまでのプロセス等について説明しました。さらに、「今後、私たちが負担する賦課金が減少していく可能性は」との質問に対して、「政府も大規模な発電設備に対しては入札制度を導入するなど官民一体となって発電コストの低減に努めてはいます。しかし、今後も設備の総量は増加させる目標であることに加えて、発電開始から20年間は同じ価格で購入することが決まっているので、当面、負担する賦課金が減少することは難しいと思います」と答えました。