とめどなく押し寄せる値上げラッシュの波。食品も電化製品も、そしてエネルギーも。改めて月々の電気代の推移を年単位で見てみるとその上昇幅の大きさは想像以上で、なんとかして節電の工夫をしなければと頭を抱える日々。同時に、ロシアのウクライナ侵攻、止まらない円安や地球温暖化のニュースを見る度に、「あたりまえ」の生活を支える基盤がいかに脆弱=外的要因に依存しているかを否が応でも実感し、また「今までどおり」の暮らしは「今のまま」では実現できない未来がすぐそこまできているという思いが頭をよぎっては振り払うー。そんな漠然としたモヤモヤを胸の内に抱えながらのエネルギーセミナー開催でした。そう、私たちは誰もがきっと気づいているのです。そろそろ目の前の大きな問題に向き合わなければ、と。でも、日々の忙しさを理由に、知らないから、わからないから、と考えることを保留してしまっている。今回のセミナーは、発電所を自分の目で見ること、そこで働く方々や専門家の話を通して自分が感じたことを互いに言葉にし合うことで、漠然としたモヤモヤを少しずつクリアにしていく時間だったように感じます。
仙台からバスで向かったのは女川駅前。ウミネコが羽ばたく様子をイメージしたという駅校舎の3階に上がると、女川湾と「新しい」街並みが一望できます。心地よい海風を感じながら、以前より嵩上げされている意味を実感する場所。目を閉じて震災前の女川の景色を思い出しながら、震災後4,000名近く人口が減りながらも歩み続ける女川の今、その賑わいを肌で感じるところからセミナーはスタートしました。
女川原子力PRセンターでは、原子力発電の仕組みや設備を模型で確認することで震災時何が起こり、どのように、なぜ原発を停止できたのかへの理解を深めました。そして女川原子力発電所の見学へ。複数回行われた本人確認などの徹底したセキュリティ対策は、津波や地震・災害以外にも、テロなどのあらゆる「想定外」を幾重にも想定しているであろうことを感じさせましたし、それらを経ての専用バスの中は独特の緊張感に包まれていました。個人的には、原発構内へ足を踏み入れることに一抹の恐れもありました。
発電所構内に入りまず驚いたのが、発電所が止まっているとは俄かに信じ難いほどあらゆるものが「動いていた」こと。安全対策工事が想像以上に大規模に、大人数で行われていました。「2024年2月に再稼働を目指している2号機の安全対策工事が行われている」という報道だけでは想像できなかった、動き続ける人びとの姿がそこにありました。また、東日本大震災の13mを遥かに凌ぐ23.1mの津波を想定し作られている高さ29mの防潮堤の壁は、目の前に広がる美しく穏やかな女川湾の海とあまりにも対照的で「安全対策に終わりはない」という言葉の意味と覚悟を象徴するものと感じました。担当者からは女川原発の2号機3号機で県内の7割の電力をカバーできること、2018年12月に運転を終了した1号機が34年をかけて廃炉となることなどの説明もありました。見学前に感じていた恐れや緊張感がなくなることはありませんでしたが、「安全対策に終わりはない」の実態を目の当たりにし、「それでいいのだ」と、むしろ恐れを持ち続けることこそが大切なのだと感じました。
2日目は山形県の本道寺発電所の見学から。寒河江ダムの600m下流に32年前に作られた水力発電所で、設備のほとんどが地下に作られています。理由は豪雪地帯だから、だけではなく周囲の景観に対する配慮からだそう。バスでトンネルを下り40m地下へ。普段は無人で遠隔操作されていて一般解放されていない発電所の構内を作業用階段を上り降りしながら見学。本道寺発電所は電力の調整役を担う施設のため、この日は発電を停止していました。電気が発電量と使用量を常に一定に保っていて、電気は貯められないという現実を目の当たりにしました。
そして、2日日のまとめとなる座談会。東北エネルギー懇談会専務理事の相澤敏也さんの「エネルギー問題を考えるいくつかの視点について」と題した講話では、人びとの暮らしを守りながらどのようにエネルギーを作り選択していけば良いのか、エネルギー問題を主体的に考えるための材料・ヒントを頂きました。全世界共通の脱炭素社会実現という大きな流れのなかでも、資源が乏しくエネルギー自給率12.1%の島国日本が抱えている問題と各国の思惑や状況は異なる。安くて、安定供給できて、地球にも優しい、それらを全部叶えてくれる夢のエネルギーはない。何か一つを悪者にするのではなく、石油・石炭などの火力、原子力、太陽光・風力などの再生可能エネルギーの各電源のメリットとデメリットを理解し、それらのメリットが最大、デメリットが最小となる最適なバランス=ベストミックスを探る必要があるとのお話を伺ったとき、「エネルギーも多様性だ」とストンと腑に落ちる感覚がありました。
その後のテーブルトーク。参加者は全員女性という共通点がありながら、異なる理由と背景でこのセミナーに参加しています。エネルギー関連会社に勤めている方もいれば、エネルギーについて一度も考えたことがなかった方も、福島で被災した方もいる。各々バックボーンが異なる人たちが、エネルギーを「自分ごと」として捉えながら自由に多種多様な意見を出し合い、互いの意見に耳を傾け視野を広げていく、まさに多様性とその可能性を確信する時間でした。
この日の夕食時。いつもより部屋の照明を落としながら、偶然にも最近、発電所について授業で習ったという小学生の娘たちと話し合う機会が持てました。「大人たちが目の前の便利さばかり追求して問題を先送りしたから将来私たちが困るなんて、正直腹が立つ。でも、そこで投げ出したら終わりだもんね。」全く想定外だった、ぐうの音も出ない「大人」な娘の言葉に一瞬言葉を失いながらも、今度は子どもたちも一緒に見学ができたらまた新たな視点が生まれるかもしれないと感じました。子供たちからも考えるヒントももらいながら共にモヤモヤのその先の視界を広げる歩みは、これからも続きそうです。
富山県出身。ミヤギテレビのアナウンサーを8年間、報道番組キャスター、情報番組MC・リポーター、スポーツ番組MC・リポーターなどを務め、2017年にフリーアナウンサーに転身。2022年4月からラジオパーソナリティとしてFM仙台「Morning Brush」木曜・金曜を担当するほか、マスターオーガニックコーディネーターの講師の資格を有するなど様々な分野で活動中。
(2022年11月現在)