第1部〜講話「エネルギー問題を考えるいくつかの視点について」〜
東北エネルギー懇談会の相澤敏也専務理事から「エネルギー問題を考えるいくつかの視点について」と題した講話を聞きました。
日本のエネルギー政策の基本となる視点
まず示されたのは、エネルギーを考えるために必要な視点でした。「昨今の情勢変化や将来的なエネルギー政策のあり方を見通し、改めて3E+Sのあり方を再整理する必要があるのではないでしょうか」
3E+Sとは日本のエネルギー政策の基本となる概念で、エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済効率性の向上(Economic Efficiency)、環境への適合(Environment)、安全性(Safety)を表しています。
「安全性が確保されることは大前提として、毎日使う電気は安定的で価格が安く、地球環境に優しいことが必要です。そのすべてを満たすエネルギーはあるのでしょうか?」と問いかけました。
日本に適した電源のベストミックス構築の必要性
日本には火力や原子力、水力、地熱など様々な発電所がありますが、現在の技術ではすべてにメリットとデメリットがあります。「ひとつのエネルギーに頼るのではなく、それぞれの特質を把握したうえで組み合わせ、その国にとってメリットが最大となり、デメリットが最小となる『ベストミックス』を構築していくことが必要です」
さらに、政府が発表した「2050年カーボンニュートラル宣言」に触れ、現状と実現するための課題を分かりやすく説明していただきました。「こういう計画があることを国民も知った上で、今後、どのように世の中が動いていこうとしているのか、エネルギーの使用者として考えていくことが必要だと思っています」
エネルギーの選択が私たちの生活と将来に与える大きな影響
原油や石炭、天然ガスなどの価格推移は、2021年に入ると乱高下しながら上昇していて、ロシア・ウクライナ危機の前から値上がりしていたことが分かりました。
「エネルギー価格の上昇と円安が同時に進んで、国民生活に大きな影響が出ている状況においては、地球環境だけを考えて政策を考えていくのではなく、国民生活の安定を図りながら、地球環境問題にも着実に取り組んでいく姿勢が重要になるのではないでしょうか。電源を含むエネルギーのあり方は、我が国の経済や国民ひとりひとりの生活に直結するもので、ひいては将来にも大きな影響を与えます。電気の使用者ひとりひとりの選択がエネルギー政策全体に大きな影響を与えてくるので、これまで以上に関心をもっていただきたいと思っています」
第2部〜テーブルトーク〜
2日間の終わりを締めくくるのは、全員が参加するテーブルトークです。司会は参加者の皆さんと同じ立場で施設見学を行ったファシリテーターの深井ゆきえさん。2回のエネルギーセミナーを通して感じたことを全員でシェアすることになりました。
「エネルギーについて主体的に関わって、考えていきたい」
まず、トップバッターとしてエネルギーセミナーを受講した感想を述べた深井さん。「自分のイメージとして、何となく原子力は怖くて、太陽光はクリーンだと思っていました。ですが、実際に見学した女川原子力発電所は、想像とは違い、運転停止しているとは思えないくらいの人が多くいいらっしゃり、イメージで捉えるのではなく、主体的に関わって考えていきたいと感じました」
参加者の皆さんからは、「エネルギーに関する知識がなく参加したが、自分たちの生活に関わること。正解がない中で、少しずつ理解していくことが必要だと感じた」「目先ではなく長い目で見て、何を選んでいくかが必要なのだと初めて気づくことができた」などエネルギーについて考える新たな視点が生まれたようです。
「実際に発電所を見て、安全対策の高さに驚いて見直しました」
女川原子力発電所の見学で印象に残っていることについては、「福島第一原子力発電所の事故の影響で『原子力は怖い』と考えていたけれど、実際に見学して、その安全対策の高さに驚きました」など、具体的な安全対策を示してもらうことで原子力に対する印象が変わったという方が多くいらっしゃいました。
福島第一原子力発電所の近くに実家がある方からは、「原子力発電所に対する反応は、世代によって大きく違います。事故の記憶が強く残る親世代は抵抗感が根強く、新しい情報を受け入れようとしません。でも、今回のセミナーを通して、反対ばかりではなく、知ろうとする姿勢が大事だと感じた」と現地の方々の実情も知ることができました。
「どうしても考えが偏りがちになるけれど、広い視野をもつことが大事」
2回目に見学した本道寺発電所に関しては、「いつも動いているわけではないことに驚いた」「あれほど良い施設なのに稼働していないことに、もったいないなと感じた」など率直な感想が出されました。
環境に優しいと言われる再生可能エネルギーですが、テーブルトークでは様々な課題も話し合われました。参加者からは、「水力発電所が良いなと思っても、立地や建設にかかる年月などの問題から、発電所の新設は現実的に難しいということが分かった」との声もありました。また、相澤専務理事の講話を踏まえ、「これまで再生可能エネルギーが良いと思っていたけれど、太陽光パネルの耐用年数や廃棄問題については考えていなかった」「太陽光パネルは簡単に設置することができるけれど、(従来の発電所と比べると)簡単に壊れてしまうことが分かった」など長期的な視点でエネルギーを選択する重要性が指摘されました。
原子力発電所の稼働期間や蓄電池についての質問が寄せられた
参加者から出た意見をシェアした後は、相澤専務理事への質問コーナーです。「原子力発電所の稼働期間を40年からさらに広げようという動きがあるが、安全性は大丈夫か」「蓄電システムの技術は、今、どのあたりまできているのか」といった質問がなされました。
相澤専務理事は「原子力発電所では、随時、補修作業を行っています。そのため、何十年か経つと、原子炉格納容器など主要機器以外は入れ替わっている状態になります。年数だけで考えるのではなく、工学的な安全性をきちんと検証しながら、安全に使っていくことが重要なポイントです」「蓄電システムは、本体価格だけで1kwhあたり14~15万円ほどします。この他に工事費も必要です。家庭で使う電気を1日10kwhと考えると、自宅に蓄電池を設置して賄っていくためには、大変な経済的な負担を伴います。まして、変電所などに蓄電器を設置することは、今の段階では経済的に全く見合いません。技術開発はしっかり行いながらも、現状ではそれに頼ることはできません」などと見解を示しました。
「家族や身近な人とエネルギーについて話し合いたい」
「活発な意見が出されたことが分かり、嬉しく思いました。普段、エネルギーについて話す機会は少ないと思いますが、参加者の皆さんからは、エネルギーについて学び、考え、意見を共有する重要性を指摘する声が相次ぎました。昨今のロシア・ウクライナ危機や燃料価格の高騰など、エネルギー問題について向き合わなければ『ならない』状況になっていることをひしひしと感じました」と相澤専務理事が感想をコメントしました。
深井さんは、「エネルギーに関して、私自身も家族や身近な人と話し合いたいという気持ちになっています。そうすることが、偏った情報にとらわれるのではなく、主体的に考える第一歩になるのではないでしょうか。」と締めくくり、2回にわたるセミナーを終えました。
自分自身や子どもたちの未来のために、皆さんも身近なエネルギーについて考えてみませんか?