周囲の豊かな自然環境を大切にするため、本道寺発電所は設備の大半を地下に設置した水力発電所となっています。バスに乗ったまま長いトンネルを下っていくとそこはまるで、秘密基地のような光景が広がっていました。
東北電力(株)山形発電技術センターの方から「水力発電の特徴」や「本道寺発電所の地下の構造」などについて説明を受けました。寒河江ダム(月山湖)の下流に位置する本道寺発電所は、平成2(1990)年6月1日、近くの水ヶ瀞(みずがとろ)発電所と同時に営業運転を開始し、1台あたりの発電能力は東北電力(株)の水力発電所としては最大の75,000kWで、一般家庭の約2万5000軒に相当する電気を供給できるそうです。電気の使用量は季節や時間帯によって大きく変化しますが、今の技術では電気を大量に貯めることが難しいため、需要に合わせて発電量を調整する必要があります。豊富な水を活用することで、常に必要な量の発電ができる本道寺発電所はその調整役を担っています。
水力発電所は高い所に貯めた水が低い所に落ちる時の力を利用して水車を回し、水車と一本の軸でつながっている発電機を回転させることで電気をつくります。発電し終えた水を流す水路の途中にある調圧水槽では、水の勢いを落ち着かせてから緩やかに河川に水を戻す役割をしており、水槽の底までは39メートルもあり13階建ての建物に相当するそうです。
東北電力(株)管内にあるすべての水力発電所は、福島県会津若松市にある水力運用センターで集中的に監視・制御を行っているため、本道寺発電所の制御室に所員は常駐していません。発電量や水の使用量、ダムの水位などを計測しながら、それに適した発電ができるように自動制御しているそうです。
水力発電所の要は、水車発電機であり、1/20サイズの概略模型で水車の仕組みをおさらいしたあと、水車室を見学しました。地中に設置された水車につながる主軸の太さは直径75cm。運転すると、1分間に273回というものすごい速さで回転します。実際の軸を目の前にすると、「運転中、点検のために近づくこともありますが、間違っても軸に触れないように、細心の注意を払います」という所員の方の説明も説得力がありました。
家庭で水を使いたい時には蛇口をひねりますが、実は水力発電所にも『蛇口』があります。
発電所の「蛇口」である「入口弁」は、導水管の中に設置されているそうです。導水管と言っても、その大きさは直径3mもあり、600m上流の寒河江ダムから必要に応じて水を引き入れたり、止めたりします。「相当な量の水を止めるので、入口弁も大きくて重く、油圧を使って動かしています」と説明してもらいました。
地上からは想像できないほど、発電所は地下で縦横に広がっていて、驚きに満ちていました。「100年は稼働できる」そうで、歴史を感じる設備の数々に、発電所員の方々の日頃の保守・点検の努力が垣間見えるようでした。